理事長所信

2024年度 公益社団法人加賀青年会議所

理事長所信

【はじめに】

「何でJCやってるの?」

ある時、知人にこう聞かれたことがあります。一言では言い表せられない深い質問だと思いました。

私の家業は、鰻を名物とする料理屋です。私がJCに入会した理由は、人脈作りでした。板場に一日中閉じこもり、家族や従業員、一定のお客様とだけ接して商売しているだけではなく、お客様や社会の情報を獲得しに外の世界へ自分から行動していこうという想いがありました。想像していた通り、LOMやブロックで様々な方たちと知り合える機会をいただき、人脈は増え、業績も上がりました。しかしそれだけではなく、JC活動を通して想像以上に学べたことがあります。それは、自分たちが成長することと、理想を掲げて実際に社会を良くする運動を起こすことの必要性です。JCの活動の中で、人と出会い、自分を磨き成長し、その上で仲間たちとこの変化の激しい社会をより良くするための運動を起こす。そうすることが自分や自社、地域をさらにより良くする好循環となることを教わりました。

2020年から私たちの生活に大きな影響を及ぼしてきた新型コロナウイルス感染症は昨年5月に法上の位置づけが、季節性インフルエンザ等と同じ5類に移行しました。その結果、感染対策は個人の判断に委ねられるなど、3年余り続いた新型コロナ社会は大きな節目を迎え、まさにアフターコロナが始まったといえます。そして、本年、地域としては、北陸新幹線金沢~敦賀間が開業し、新幹線が加賀にやってきます。加賀青年会議所に目を向ければ創立60周年を迎えます。このように私たちを取り巻く環境はさらなる大きな変化を迎える年となります。この中で、我々がしなければならないことは何でしょうか。それはまさしく、我々一人ひとりが成長することを止めず、「明るい豊かな社会の実現」の理想を掲げ、まとめ上げ、それに向かい変化を恐れず行動することです。新型コロナの時代は、変化することへの恐れを取り払ってくれたとも言えます。新幹線開業や60周年は、それを後押ししてくれる絶好の機会です。さあ、我々が、地域の人たちを、そして地域をより良く変化させられる一年をここから創り上げていきましょう。

基本理念

~時代に先駆けた明るい豊かな社会を目指す~

我々は常に「明るい豊かな社会の実現」を目指しています。「明るい豊かな社会」とは青年会議所の思い描く理想の姿であり、その答えは、JC宣言に記載されています。現行のJC宣言が2020年に改定され、「輝く個性が調和する未来」と「持続可能な地域」が「明るい豊かな社会」を定義する二本の柱となったように、その時代時代に合わせて我々が描く理想の姿は変化しています。

「人には優しくしなさい」。誰しも今までに言われたり、誰かに言い聞かせたりしたことのある言葉ではないでしょうか。他者を重んじる日本らしい、実に素晴らしい考え方です。「人に優しい」、その真意は、ただ相手に対して温かく接することだけでなく、相手を理解し尊重することや時には意見を主張し合い伸ばし合うこと、様々な立場に立ってどうすればより良い環境が創っていけるのかまで考え実践することだと私は考えます。つまり、この言葉こそ、JC宣言に明記されている、「輝く個性が調和する未来」と「持続可能な地域」の根幹ではないでしょうか。近年広がりを見せる、ダイバーシティ&インクルージョンとは、多様性を認め合い個性を活かし合うことであり、相手を尊重するからこそできることです。SDGsに代表される持続可能な社会とは、将来の世代に損害が生じないようその欲求を満たしながらも、現在の世代も満足させるような開発が行われている社会を意味するわけで、まさに世代を超えて、人、経済、環境、資源等に配慮したすべてに優しい考え方だといえます。

我々は、地域やメンバーにおいて優しさを忘れてはなりません。時には、厳しさも必要です。しかしそれも長い目で見れば、優しさの裏返しです。そして、優しくあると共に、周りに影響を与えられる存在でなければなりません。なぜなら、そういった理想的な環境を創るためには人を巻き込む必要があるからです。時代の流れの中で、これまでの常識にとらわれない先進的な考えを持ちながら、地域やメンバーのことをいかに知り、いかに考え、どう行動するか。我々の振る舞い一つひとつが地域に影響を与えるという気概を持って一年間活動していきましょう。

~地域を変えられる組織~

加賀にも少子高齢化や人口減少、地域産業の衰退など多くの社会課題が山積しています。企業のみならず、自治体や我々のような団体にしても時代に合わせた変革の下、社会課題に向き合い、その解決を進める中で社会に必要と認識されなければ生き残っていけない時代です。今まで加賀青年会議所の59年の歴史の中で、多くの事業や運動が地域に対して行われてきました。どの時代のどの事業も、地域課題の解決や青少年の育成など地域により良い変化をもたらすことを目的に行ってきたはずです。私も過去に委員長として活動させていただき、新たな考え方に触れ、様々な経験をさせていただきました。しかし、実際にどう地域を変えられたかといわれると自信を持って言えない部分もあります。自己満足のJCごっこのようなものではなく、多くのステークホルダーを巻き込み、共感と協働を生み出し、実際に地域の課題や困っていることを解決し、地域の未来を担う子供たちに希望を与えられるような大きなスケールの本質的な事業を展開していきましょう。

また、社会課題解決とビジネスの要素は切っても切れない関係にあると考えます。なぜなら、そうでないと持続可能な仕組みが構築できないからです。持続可能な地域を目指すためにも、既に社会に浸透しているSDGsやESGといったエシカルな考え方やAIやIoTなどのデジタル技術を駆使したDXなど最新の考え方などと、今ある地域の歴史や文化などの価値や魅力とを組み合わせて、新たな価値を創出することが必要です。このように我々加賀青年会議所が新たな視点を持って、地域をリードしていく存在となりましょう。

~メンバーが成長できる組織~

春水満四沢「しゅんすいしたくにみつ」という句があります。これは、中国東晋時代の詩人、陶淵明(とうえんめい)の春の句です。春水(雪解け水)が沢を一杯に満たすということですが、さらに意味を深堀できます。冬の間に積もる雪を利用することは難しく、むしろ苦労するものですが、春になると雪は溶け出し、川を作り、その水を飲むことはもちろん、水を利用して田んぼで米を作ることもでき、地域を豊かにしてくれます。これと同じことが人でも言えます。努力をしている最中は、自分の成長は中々感じられないし苦しいことも多くあるかもしれません。しかしその経験は、雪解け水のように、その先の自分の大いなる成長や向上、ひいては「明るい豊かな社会の実現」へと必ずつながっていくはずです。

JCをやるからにはメンバーが成長してほしいと考えます。お金をかけて、時間をかけて、自身に返ってこないのは、非常にもったいないことです。私の思う成長とは、様々な経験を通して、自身の力によって他者や地域をより良くできる影響力のある存在に成っていくということです。つまり、我々自身の成長が「明るい豊かな社会の実現」への第一歩なのです。ビジネスの世界ではスキルアップやリスキリングの必要性が叫ばれています。青年会議所は異業種が集い、単年度制という仕組みの中で様々な角度から自己を引き上げてくれる組織です。加賀青年会議所が長い伝統の中で一貫して在り続けた、「人を創る組織」としての価値をより高め、存分に活用していきましょう。

基本方針

~これまでの活動の継承と発展~

我々は、創立55周年に発表した「加賀JC宣言 加賀維新の先駆けとなれ!」を行動指針として、加賀の未来のために多様な行動を起こす人々が溢れるまちという理想像に向け、加賀に住む人々との間に共感を育み連携をしながら、地域の未来を創るアイデアを実践する様々な事業を展開してまいりました。そして、我々の想いに共感し、多様な行動を起こす人々が増えることで、この加賀をより良くするための多様な行動やアプローチが拡がっていく循環が生まれます。この流れは絶やすことなく引き継ぎ、実際に実例としてそのような行動がいくつも実現する、その先の時代を創り上げていくことが必要です。

~地域をつないで持続可能な加賀を~

2023年の世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)は、「分断化した世界における協力」をテーマとして開催されました。もともと分断は世界で起きつつありましたが、新型コロナウイルスのパンデミックとウクライナ危機が引き金となり、世界中でエネルギーや資源の不足、物価上昇が起こり、世界の国々は自国を守る姿勢を取り始めました。これにより世界の分断は加速する一方であり、反対にグローバルな協力体制は弱体化する一方です。世界は力を合わせ、分断の危機を乗り越えなければなりません。

この話を聞いて私が思うのは、分断が存在するのは何も世界だけではないということです。加賀に目を向けると、大聖寺、山代、山中、片山津、橋立、動橋など多くの魅力的な地域がありながら、加賀として一つになってまとめ上げられていないのが現状です。一つひとつの地域の個性は素晴らしいものですが、それを加賀として大きな強みに変えられていません。もちろんどの地域にも、目先の多岐に渡る課題があるとは思いますが、大きな括りでは、誰しも加賀という大きな地域の持続性を考えているはずです。様々な人が個々に発信でき、それが価値となる現代だからこそ、地域の良いところを地域の人が認識し合い、地域の人自らが新たな魅力を創り出す必要があります。そのためには我々が地域全体のビジョンを示し、こんなの良くない?の「この指とまれ」をする必要があります。我々だけでなく、我々の活動に共感していただける個性溢れる個人や団体、行政等を巻き込んで協力体制をとりながら、持続可能な地域を創り上げていきましょう。

~広い視野を持って~

よく地域活性には、「よそ者・若者・バカ者」が大切と言われます。私は、物理的にそういった人が必要という意味ではなく、外の世界から客観的に地域を見れる目、従来の常識に縛られない思い切った行動力が必要であるということだと考えます。私たちの責務は流行を広めることではありません。時代の潮流を読み、これから必要とされる流行を創り出し、運動として広めることなのです。そういった意味で、狭い世界だけでなく、外部からの刺激が重要だと考えます。地方の文化は閉鎖的だとよく言われますが、存続のために現状維持を求めたくなる以上、閉鎖的でないコミュニティなどはそもそも存在しません。しかし、この変化の激しい社会では現状維持では衰退と同じです。多くの組織やコミュニティとつながりがある我々だからこそできる新たな変化が、「明るい豊かな社会の実現」へとつながるはずです。

本年は加賀温泉駅の新幹線開業など、市外県外国外の方々がより多く加賀に足を運ばれると予想されます。外部の方の目線や評価が内部に新しい気づきをもたらしたり、鼓舞したりすることは、歴史的にも往々にしてあります。外部にも目を向け、加賀の魅力を発信し、様々な角度から加賀青年会議所のファンを創造していくことが必要だと考えます。

~様々な個が強みとなるJCへ~

第二次世界大戦後の高度経済成長期は、「大量消費・大量生産」の時代でした。同じものを画一的に効率よく生み出す力が求められました。しかし、少子高齢化による働き手不足やグローバル化、価値観の多様化により、個の考え方や個性、つまり多様性が重要度を増してきました。JCは素晴らしい個の集合体です。個に寄り添い、存分にその個性を活かした活動をしていくことが必要です。しかし、ただ個が優れていても目指す方向がバラバラで好き勝手していては、統率が取れず効果的な活動はできません。JCしかなかった時代から、JCもある時代と言われる今だからこそ、JCにしかない理念と強み、そして魅力を我々自身が改めて深く理解することが必要です。その上で行動していく中で、個人の成長と地域の発展があるはずと信じます。

■未来創造室

なぜ大学へ行くのかと聞かれた子どもが「将来の選択肢が増えるから」と返したという話があります。より一層、自分の未来を自らが考え創造する時代へと進んできています。2023年に加賀市は新たな学校教育ビジョンを発表しました。その内容は、「常識や前提にとらわれないこと」、「人とは違うことを強みにする」といったこれまで我々青年会議所が必要と考えてきたことと重複することが多々あると感じます。しかし、そういった教育や経験を子どもたちに与えることも、学校だけでは限界があると考えます。子どもたちは、あらゆる機会を与えられなければ、自分の個性が何かもわかりません。我々地域の大人たちが、つながりやネットワークを駆使して、子どもたちに様々な可能性を提示して、自分で考え決めていくための下準備となる情報を与える必要があると考えます。そして子どもたちには、相手を尊重しながらも、自分の個性を見つけ出し将来の選択肢を増やしていけるような経験をしていただきたいと思います。そしてその上で、その個性を活かし合いながら、地域の大人と関わり合い、自ら未来を切り開いていく力を育んでいただきたい。

伝統ある『わんぱく相撲大会』では、事業目的を継承し、子どもたちの思い出に残る事業にするとともに、今後の継続性を見据えて事業構築していただきたい。

■地域創造室

加賀の地域活性には、加賀の個性を加賀に住む人々が理解し、時代に合った形で活かすことが重要だと考えます。加賀には素晴らしい文化や資源がたくさんありますが、それを地域の人が価値として認識していないことが多くあると感じます。そもそも地域にどんな文化、モノ、ヒトが存在しているかさえ知らないことも多くあります。まずは個性的な地域の価値や魅力を地域の人が認識することが重要だと考えます。現状や歴史を知らずして新たなものは生み出されませんし、生み出されたとしても説得力もありません。加賀ならではの風土や文化、歴史、日々の暮らしに着目し、まちに根付いたストーリーを発掘することが重要です。そしてそこに新たなテクノロジーや考え方を組み合わせ、多くの人の共感や協働を加えて、新たな価値を創造していただきたい。

そして、内部だけでなく、外部からの視点にも着目していただきたい。地方に宝が眠っていることは、地元よりも都市部の人が気づいていることの方が多いように感じます。スケールの大きな運動に昇華させるためにも、地域内の見方にとどまらず大きな視点で地域を捉えていただきたい。

『地域再構築アワー』では、地域内外からの視点を取り入れ、今ある地域の魅力を再認識し、今の時代に合わせた価値への再構築を考えるアワーにしていただきたい。『地域創造事業』では、地域内外のリソースやステークホルダーを組み合わせ、加賀の方が胸を張って誇れ、磨きをかける行動に移したくなるような新たな時代の新たな価値を創造する事業にしていただきたい。

 ■会員担当特別理事

会員拡大は、組織の最重要課題です。加賀青年会議所のメンバー数は減少傾向にありますが、「地域のために何かしたい」、「自分が成長したい」という想いを持ったメンバーの割合は増えていると感じます。そういったメンバーの想いをしっかりと地域の様々な個性溢れる人財に伝え、我々の仲間に加えていただきたい。また、拡大活動においては、メンバー間の情報の共有や連携が不可欠です。一人ひとりが個性を活かし、自分事で考えられるような仕組みを構築していただきたい。

 ■財政特別理事

我々の活動はメンバーからの会費で支えられています。その貴重な会費が効果的かつ効率的に使われるように費用対効果を考えた透明性のある財政運営を行っていただきたい。また、メンバー減少に伴い、予算が縮小されていく中、より地域やメンバーに効果を与えられる事業を行うためにも、補助金や寄付金、クラウドファンディングといった、様々な方法での財源確保をメンバーとともに推進していただきたい。

加賀青年会議所は、社会やメンバー数の変化に伴い、財政面からも改革の時期であると考えます。『財政アワー』では、社団法人格の議論をはじめ、より地域やメンバーのための組織としてあり続けるための選択肢を財政面からメンバーと共に考え、行動に移すための事業にしていただきたい。

 ■事務局

事務局は組織の根幹であり、中枢であります。定例会や理事会など、メンバーの皆様の時間を預かることを自覚し、規律ある組織運営を行っていただきたい。そしてその上で、すべてのメンバーが青年会議所活動にしっかり参加できるよう、メンバーを理解し、多様性を認め合える、時代に即した組織運営を行っていただきたい。

議論を交わす理事会では、ルールを徹底し効率的な議論が進められるよう設えていただきたい。メンバー全員が集う定例会では、礼儀と節度を保ちつつも、メンバーが参加したくなるよう楽しく交流できる場にしていただきたい。

広報では、しっかりと相手に伝わる効果的な手法を用いて、加賀青年会議所の魅力を地域内外に発信していただきたい。

『新年発表会』では、2024年度のスタートを切るにふさわしい、我々の決意を地域にしっかりと発信できる事業にしていただきたい。また『卒業式』では、卒業生一人ひとりに敬意を示し、それぞれの熱い想いを継承できる最高の舞台としていただきたい。

■60周年実行委員会

本年、加賀青年会議所は創立60周年を迎えます。これまで諸先輩方が築き上げてこられた伝統や歴史に敬意と感謝を表し、それを再認識し、これからの新たな方向性を策定致します。一部のメンバーで行うのではなく、メンバー全員が当事者意識を持って60周年という節目とその先を考え、未来への行動に移す機会と捉えていただきたい。

また、来賓の方々や諸先輩方、他LOMのメンバー等全ての方と親睦を深め、これからの我々の運動へのさらなるご理解と共感をいただく場となるよう企画運営致します。

~最後に~

JC活動にしても、教育やビジネスにしても、誰も「正解」が分からない時代だ。

こうやれば間違いない、ということがない時代なんだ。

だからこそ、個々が考え、皆で議論し、辿り着いた理想に向けて行動し実現していく。

我々自身が、覚悟を持って「正解」にしていく時代なんだと思う。

そして、JCはその過程が自らの血肉になる組織だ。

我々のJC活動を、「明るい豊かな加賀の実現」という「正解」にしていこう。

JCはそれができる組織だ。

それが、JCをやる理由であると私は思う。

さあ、皆で加賀の未来を創ろうぜ。

公益社団法人加賀青年会議所 第60代理事長  北村 浩太郎